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ムエタイ入門(6回)

    
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ムエタイ入門(6回)

ちなみにこの薬とは、テレビがきっかけでレックさんが研究を始めたというもので、パイナップル、スイカ、きゅうり、それに近所に生えている花や葉っぱなどを調合したもの。その他、レックさんは、ラムヤイ(龍眼)を発酵させたものを栄養ドリンクとしてジェームス君に飲ませている。風邪気味の時などはこれを飲めば一発で治るのだとか。。。試しに僕も飲ませてもらったのだが、力がみなぎってくるような感覚はなかった。ある程度お金に余裕のあるムエタイ選手は、試合前チキンエッセンス(ブランズ)を飲むが、やはりそれだけのお金はないということであろう。

先進国に住む人権団体の女性がこの状態を見れば、児童虐待だと言うかもしれない。いや、タイにおいてもムエタイに対して偏見を持った人は少なからず存在する。実際、ジェームス君が友人をジムに連れてきても、親が反対して連れ戻すようなこともあったそうだ。自国の格闘芸術としてムエタイに誇りを持ちつつも、いざ自分の子供がその練習を始めようとすると、素直にこれを応援できないということのようである。

ただ、ジェームス君を見ていて思ったのは、決して彼は嫌々ながらにムエタイをやっているわけではないのだということ。また、自分の置かれた境遇を嘆いたり、拗ねたりするような素振りも全く見られなかった。

むしろ父親であるレックさんの方が「ジムを大きくしたり、自主興行を開催したりしたいんだけど、お金がないんだ」と窮地を訴えていたが、これにしてもタイ人特有の甘えであり、悲惨さを感じさせるようなものではなかった。おそらく仏教の影響ではないかと思うのだが、タイ人には、あるがままの自分を受け入れようとする気質が備わっているのだと思う。

さらに、タイ人を見ていて常日頃思うのは、「貧困は、不便なものではあっても、不幸なものではない」のではないかということ。

自分のためであれ、家族のためであれ、お金持ちになりたいという夢が持てるのは、貧乏人の特権であろう。例えば1ヶ月に1000バーツのお小遣いをもらっているお金持ちの子供が200バーツのお金をもらうのに痛い思いをしてムエタイの試合をしようとは考えないであろうが、低所得層出身である多くのムエタイ選手は、キャリア最初の試合で100~200バーツのお金を稼いだことを人生最良の思い出のように語るものである。

今の日本に「お金持ちになりたい」ということを将来の夢に挙げる小学生がどれほどいるだろうか?

ジェームス君と話をしていて感じられたのは、「とにかく強くなって、たくさん稼ぎ、大好きなお父さんを喜ばせたい」という気持ちである。彼の成功を願わずにはいられない。
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写真「ジェームス君の家」

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