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ムエタイ入門(15回)

    
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ムエタイ入門(15回)

今回も「ムエタイが弱くなってしまったのか?」という話を続けたい。

あくまでも私論にすぎないが、前回は技術的には昔のムエタイより今のムエタイの方が優れているのではないかということを述べた。それでは、なぜ来日するムエタイのチャンピオンクラスがコロコロと日本人選手に負けるようになってきたのか?

実際、最近では現役のチャンピオンやランカークラスのタイ人選手が、日本で開催される興行において負けることは珍しくなくなってきている。キックボクシングファンの中には「タイ人って本当に強いの?」という疑問を抱く人もいるようだ。筆者はこの理由が以下の4つに集約されるのではないかと思っている。

1) 世界のムエタイのレベルが上がってきているということ

2) 実力の伴わないムエタイのチャンピオンもいるということ

3) 旬を過ぎた選手が招聘されることも多いということ

4) セットアップ疑惑

世界規模のムエタイを考える上で前提となるのは、ムエタイがタイ人だけのスポーツではなくなりつつあるということ。昔と比べると非タイ人競技者のムエタイ技術は間違いなく格段にレベルアップしている。

以前はタイ人選手と非タイ人選手の試合における動きには明らかな違いがあった。なめらかでしなやかなタイ人選手の動きに比べて白人や日本人の動きは確かにぎこちなかった。今でも同じようなことを言う人がいるのかどうかは知らないが、少なくとも10~20年前までは「ムエタイと同じリズムで闘ったのでは日本人は勝てない」とか「ムエタイの真似をしていてはムエタイには勝てない」という人が多く、意図的に独自のスタイルを構築しようとする人もいたように思う。

ところが、最近では、ムエタイを変に意識することなく、自然にその技術を吸収する選手が増えてきている。とりわけフランス人にはムエタイをムエタイのまま習得しようという傾向が強いように思う。10才頃からタイに移り住んで数多くの試合をこなしてきたアントゥアン・ピント/リオ・ピント兄弟、タイファイトで優勝経験のあるファビオ・ピンカ、さらにはルンピニースタジアムの現140Pチャンピオンであるダミアン・アラモスなどはいずれも完成度が高く、色が黒くて顔が東洋人であればタイ人と見間違えるかもしれないほどだ。

K-1Maxで活躍していたイタリアのペトロシアンなどは、どう見ても完全なムエタイ選手だ。本人は長期間タイで練習したことはないと言っているようだが、こういう選手が登場してきたことこそムエタイが確実に世界に普及しているということの証なのだと思う。

レベルが上がってきているのは何もヨーロッパに限った話ではない。最近では幼少の頃からムエタイを始める日本人の選手も多く、タイで試合を行う日本の子供たちの中には、地元のムエタイキッズに引けをとらないような子も多い。以前はキックボクシングの先にあったムエタイだが、今では最初からムエタイを志す選手も増えてきている。

子供には無意識に本物を見極める目が備わっており、良いお手本さえあれば、高度な技術もすぐに吸収してしまうということなのだろう。いずれにせよ、タイ国外におけるムエタイのレベルが上がってきているということは疑う余地のないことであると思われる。

しかし、これが、日本人選手が来日するタイのチャンピオンクラスに勝てるようになってきた直接的な理由であるとは考えにくい。世界のレベルが上がったことでタイ人と非タイ人の差が幾分埋まったということはあっても、本場ムエタイの壁は相変わらず高いところにそびえており、135ポンド(ライト級)以下の階級でトップレベルのムエタイ選手に勝利することが困難であるということは今も昔も変わらないのではないかと思う。

それではなぜ日本のキックボクサーたちが、タイの現役のチャンピオンクラス(特にラジャダムナン系)に勝利することが増えてきているのか?

誤解を恐れずに言うと、これら日本で試合をやって負けるような選手というのは、チャンピオンクラスではあっても真のトップクラスの選手ではないからだ。こういうことを言うと、「チャンピオンがトップクラスの選手でないとはどういう意味だ?」とか「ルンピニースタジアムやラジャダムナンスタジアムのチャンピオンクラスがムエタイの最高峰なのではないのか?」といった声が聞こえてきそうだが、ムエタイ選手の実力というのは、タイトルやランキングで計測できるようなものではないということを強調しておきたい。

ランキング1位の選手は2位の選手より実力が上で、チャンピオンは1位の選手より強いというような単純なものではないということだ。実力があってもマッチメークに恵まれなければチャンピオンにはなれないが、実力がなくてもマッチメークに恵まれればチャンピオンになることができる。

日本で負けるチャンピオンクラスのムエタイ選手というのは、大抵が「あれ?そんな選手いたっけ?」というようなぽっと出のチャンピオンであったり、一時期はタイ国内でも騒がれていたものの既に旬を過ぎた選手であったりすることが多い。

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~続く~

写真撮影:早田寛

『セーンマニー・ソー・ティアンポー:今タイで最も注目されている選手。テクニシャンだがハートも十分に強い。日本のバンタム級でセーンマニーに挑戦したい選手はいないだろうか。。。』

 

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