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ムエタイ入門(17回)

    
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ムエタイ入門(17回)

「ムエタイにサウスポーが多いのはなぜか?」というテーマについて書き進めることにする。

筆者はこれには2つの理由があると思っている。まず1つ目の理由は、ムエタイにおいてはサウスポーの方が有利であることから、生まれつき左利きだという選手の方が右利きの選手よりも頭角を現す可能性が高く、目立った存在になっているのではないかということ。もう1つの理由は、元々右利きであるにもかかわらずサウスポーに構える選手が少なからずいるということ。とりわけ、利き手、利き足はそれぞれ右手、右足なのに、いざムエタイを始めてみたら左ミドルキックの方が力強く蹴れたために、左ミドルを軸にして試合を組み立てるようになったという選手も多いようだ。

それではサウスポーはオーソドックに比べて本当に有利なのだろうか?先に結果から言うと、サウスポー(左利きの選手)はオーソドックス(右利きの選手)よりも有利であると結論付けて問題ないかと思う。これには幾つかの理由があるが、一番大きな理由は、サウスポーの選手は、オーソドックスの選手を相手にすることに慣れているが、オーソドックスの選手はサウスポーの選手を相手にすることに慣れていないためである。また、左ミドルキックは、オーソドックスの選手が相手であれば、レバー(肝臓)に正面からヒットさせ、これだけで効かせることが可能であるため、ミドルキックを軸にして試合を組み立てることの多いムエタイにおいては有利であるとも考えられている。

そもそも左利きの出現率は古今東西同じくくらいであると考えられており、日本であろうがタイであろうが、10%前後ではないかと思われる。つまりサウスポーに矯正する選手がいない場合、オーソドックの選手は10回試合をやってもサウスポーの選手と対戦することは1回くらいしかないのだ。実際、日本のキックボクシング界であればサウスポー選手の割合はそれくらい少ないのではないだろうか。サウスポー選手との対戦を苦手とする日本人の選手が多いのも対処に慣れていないからであろう。

一方、タイの場合、特にルンピニースタジアムやラジャダムナンスタジアムに出場するような選手に限定すると、サウスポー選手の割合は到底10%という数値で説明できるようなものではなく、少なくとも20%、もしかしたら30%を超えているのではないかとも思えるほどである。

例えば、2013年12月3日に行われた1年に1度の大イベントであるルンピニースタジアム創立記念興行に出場した全22名の選手のうち、なんと実に半分の11名がサウスポーとなっている。(前回も似たようなデータを提示したような気がするが、まあ、ダメ押しということで。。。)

第1試合P122契約
ガンワンレック(サウスポー)対ニンサヤーム(オーソドックス)

第2試合P106契約
ワンチャイ(オーソドックス)対デートカート(サウスポー)

第3試合P117契約
プラチャンチャーイ(オーソドックス)対エッグモンコン(オーソドックス)

第4試合P136契約
ノーンオー(オーソドックス/たまにサウスポー)対チャムアックトーン(オーソドックス)

第5試合P131/P133契約
ペットパノムルン(サウスポー)対ヨードトゥアントーン(オーソドックス)

第6試合P129契約
ペットモラゴット(サウスポー)対ウイシアオポー(オーソドックス)

第7試合P124契約
スーパーレック(オーソドックス)対タノンチャイ(サウスポー)

第8試合P132契約
ゴーンサック(サウスポー)対パコーン(オーソドックス)

第9試合P124/P122契約
スーパーバンク(サウスポー)対サームエー(サウスポー)

第10試合P135/P133契約
ペットブンチュー(オーソドックス)対セーンチャイ(サウスポー)

第11試合P108契約
サームディー(サウスポー)対サターンムアンレック(サウスポー)

ただ、タイにおいてサウスポーが多いというのは実は結構説明の難しい現象である。というのも、先ほど「左利きの出現率は古今東西同じくくらいで10%程度」と述べたばかりであるにもかかわらず、実際にタイにおける左利きの割合はもっと少ない可能性もあるからである。

なぜならタイにおいてトイレットペーパーがそれほど普及しておらず、特に田舎ではどの家庭でも排泄後は水で洗浄するのが一般的である。そして、このお尻を洗う際に使われるのが左手であることから、左手は不浄の手とされており、左手で食事をすることは忌み嫌われるというのだ。断っておくが、これは筆者の実感ではない。旅行ガイドブックなどに頻繁に書かれていることだ。本によっては、上記の理由からタイには左利きの人はあまりいないとか、全くいないと断言しているものまであるのだ。

筆者のタイの友人には左利きの人も何人かいるし、左手で食事をすることが忌み嫌われるということ自体も実際にはあまり聞いたことがないような気がするので、これらの情報をそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。ただ、そういう説が出てくるということは、何かそれなりの根拠があるのかもしれない。信用に足るような統計情報が見つからなかったので、あくまで推測に過ぎないが、もしかするとタイでは幼児期に親から右利きに矯正させられてしまう人も多く、これらのガイドブックに書かれている通り、もしかしたらタイでは左利きの人は他国と比べて幾分少ないのかもしれない。

だとするとなぜムエタイにはこんなにサウスポーが多いのか?これらサウスポー選手の大半がドーイタマチャート(生まれつき)の左利きではなく、練習によって矯正したサウスポーだというのだろうか??

119-1

~続く~

写真 『ペットモラゴット・ウォー・サンプラパイ:名門ペッティンディーアカデミージムの注目株。長身から繰り出す膝と左ミドルを得意とするサウスポーの選手。本人に聞いたわけではないので確かなことは言えないが、多少動きがぎこちないため矯正型のサウスポーかもしれない』

写真撮影:早田寛

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