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ムエタイ入門(41回)

    
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ムエタイ入門(41回)

以前も書かせてもらったが、ムエタイ業界においては、毎年様々な団体が年間最優秀選手(MVP = Most Valuable Player)を選定している。MVPを選定している団体は1つではなく、以下のように数多く存在する。


■団体名:ラジャダムナンスタジアム/MVP呼び方:ナックムエタイ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年12月

■団体名:ルンピニースタジアム/MVP呼び方:ナックムエタイ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年12月

■団体名:スポーツ統括局/MVP呼び方ナックムエタイ・ディーデン他/発表時期:毎年12月

■団体名:7チャンネルスタジアム/MVP呼び方:ナックムエタイ・クワンチャイ他/発表時期:毎年1月

■団体名:ボクシングスポーツ記者会/MVP呼び方:ナックムエタイ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年2月
■団体名:サイアムスポーツ社/MVP呼び方:ナックムエタイ・アチープ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年3月

■団体名:スポーツマスコミ協会/MVP呼び方:ヨードムエタイ・トゥアイ・プララチャターン他/発表時期:毎年3~5月頃

 

それでは、2015年度においてはどのような選手がMVPに輝いたのであろうか?

 

まず12月発表のラジャダムナンスタジアムのMVP。2015年度の同スタジアムの最優秀選手に選ばれたのは、同年9月に日本の梅野選手にも勝利しているセクサン・オー・クワンムアン選手であった。2015年12月初旬時点において最終選考まで残っていたのは、年間成績が7戦5勝1敗1分であったこのセクサンと8戦7勝1敗の成績を残したセーンマニー・ソー・ティアンポーであり、戦績としてはセーンマニーの有利であったが、セーンマニーは直近の試合において大差でタクシンレックに負けてしまったことが響いた。結局、10名の審査員に支持されたセクサンが1名の審査員に支持されたセーンマニーを退け、年間最優秀選手賞を獲得した。

 

また、ちょうど同じ頃に発表されたのは、ルンピニースタジアムのMVP。こちらの賞を獲得したのは、2015年度において10戦9勝1分の戦績を収めたギアペット興行所属のロンナチャイ・サンティウボンであった。

 

その後、12月23日のラジャダムナンスタジアム創立記念興行においてセクサンに全く何もさせずに完勝したセーンマニーが、スポーツ統括局やボクシングスポーツ記者会などの選定するMVP賞を独占したが、セーンマニーの躍進はここまでであった。

 

とりわけ、数あるMVPの中で2番目に価値があるとも言われるサイアムスポーツ社の年間最優秀選手賞(毎年3月発表)もセーンマニーが受賞するであろうと言われていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。2月初旬の時点においては、タノンチャイ・タナコンジム、プラチャンチャーイ・PKセーンチャイムエタイジム、ギンサンレック・トー・ラックソーン、ムアンタイ・PKセーンチャイムエタイジム、ロンナチャイ・サンティウボン、セーン・パランチャイ、シン・パランチャイ、ジェームサック・サックブリラム、パンパヤック・ジットムアンノン、ペットモラゴット・ウォー・サンプラパイ、セクサン・オー・クワンムアンといった12名の受賞候補者の中にセーンマニーの名前も挙げられていたが、同賞の審査対象が2015年3月1日~2016年2月29日までの試合であり、ちょうどその期間終了間際の2月24日にラジャダムナンスタジアムで行われたタノンチャイとの試合で負けてしまったことから脱落し、そのセーンマニーに勝利したタノンチャイが9戦6勝2敗1分の年間戦績でサイアムスポーツ社のMVPに選ばれてしまった。

 

興味深いのは、MVPというものが単に戦績だけによって決まるものではないということ。特に今回のサイアムスポーツ社のMVP選定時においては、2人の際立った戦績を残した選手がいた。ギンサンレックとシンである。まず驚異の新人であるギンサンレックは、10戦9勝1無効試合の戦績。しかも、そのうちの4試合はKO試合、さらに無効試合になった一戦も、圧倒的に有利な展開の中、倒れた直後に起き上がろうとする相手を蹴ってノックアウトしてしまったために問題となり、結局無効試合と判断されてしまったもの。一方のシンの戦績もすこぶる際立っている。こちらは6戦6勝(5KO)であった。もっと言うと、これらの戦績は上述の審査対象期間内におけるものであり、この原稿を書いている3月末時点において、2人とも15連勝中というムエタイではちょっとあり得ないような記録を更新中なのである。

 

それでは、なぜこの2人の選手がMVPに選ばれなかったのか?

 

その理由はギンサンレックとシンでは異なる。

 

まずギンサンレックの場合は年齢的に若過ぎ(14歳)、階級的にも下過ぎる(100P~107P=45.35キロ~48.53キロ)と判断されてしまったためである。そして、シンの場合は、これまでの主戦場が7チャンネルスタジアムであったことから、対戦相手のレベルが低すぎたと判断されてしまったのだ。(ちなみに、シン・パランチャイは、7チャンネルスタジアムの2015年度MVPに選ばれている。)

 

全く同じ現象が今年のタイ国スポーツマスコミ協会のMVP審査においても見られた。ムエタイ選手であれば誰もが憧れる同協会の年間最優秀選手の候補に残ったのは、上述のギンサンレック、シンに加えてパンパヤックであったが、年間を通じて無敗のギンサンレックとシンを抑えてMVPに輝いたのは年間戦績が8戦5勝2敗1分のパンパヤックであった。具体的にはパンパヤックに投票した審査員が9名、シンに投票した審査員が2名という結果であった。まあ、しかし、これはこれで妥当な判断であったと思う。なぜなら、毎回体格的なハンデを背負いながらも超一流選手を相手にこれだけの戦績を残したパンパヤックは、やはり称賛に値すると思うからである。

 

パンパヤックはこれで3年連続スポーツマスコミ協会のMVPに選ばれたことになる。過去ゲンサック・ソー・プルンチットとアヌワット・ゲオサムリットが2年連続MVPになったことはあるが、3年連続となると史上初の快挙である。全くたいしたものである。

 

なお、パンパヤックは、5月にセーンマニーと対戦する予定となっており、こちらもまた楽しみである。

 

減量中のパンパヤック・ジットムアンノン

減量中のパンパヤック・ジットムアンノン

 

 

文・徳重信三

 

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