キックボクサー志朗公式サイト

ムエタイ入門(20回)

    
\ この記事を共有 /
ムエタイ入門(20回)

さあ、いよいよムエタイ最大の謎とも言える判定について書いてみることにする。

まず、ムエタイの判定というと、パンチより蹴り、ローキックよりミドルキックや膝が評価されるということを強調する人が多いように思うが、実際には、それだけでは説明のつかないことが多すぎる。
ムエタイの判定が分かりにくい背景として、ムエタイがギャンブルの対象であり、観客の意向が判定に大きく響いているということもあるが、これについては、過去散々書いてきたので、今回はムエタイの本音と建前、または現実と理想、さらに言うとホントとウソという部分に焦点を当てて考えてみたいと思う。

そもそも、ムエタイにおいては、本当にパンチより蹴りの方が評価されるのであろうか?審判に聞けば、まず違うと言うだろう。教科書的な審判の回答としてよくあるのが「どの技がより評価されるというのではなく、相手にダメージを与えたかどうかが評価されるのだ」というもの。つまり、パンチより蹴りが重視されたり、ローキックよりミドルキックが重視されたりするのではなく、どの技であっても相手にダメージを与えれば評価されるのだというわけである。審判がこのように言うのは当然であろう。なぜなら、ムエタイのルールブックにそのように書かれているからである。

ところが、この審判の言うことをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。なぜなら、これこそが建前だからである。試合序盤から何度も相手のローキックやパンチを食らっていた選手が、4ラウンドに数発のミドルキックをタイミング良く決めただけで、5ラウンドには逃げまわって勝者となるシーンを今まで何度目にしたことだろう。勝った選手が試合後に足を引きずっていたとしてもの話だ。また、一進一退の攻防が続いた試合で、5ラウンド、相手のお尻にいかにも軽そうな膝蹴りをペコペコ当てた選手が勝者となったシーンを目にした方も多いだろう。

日本人選手がローキックとパンチを多用するのは理由があってのことだ。なぜなら、これらの技は、比較的簡単に、体勢を崩さずに、またスタミナの消費を抑えながらも相手にダメージを与えることができるからだ。そして、相手へのダメージという点において、ローキックがミドルキックより劣るということはないと思う。むしろ試合後を考えるとローキックの方が「効かせられる」と言っても良いだろう。

ところが、審判が何を口にしようが、ローキックがムエタイであまり評価されていないというのは事実だ。ムエタイにおいて、この技は相手を弱らせたり、KOしたりするためのものであって、ポイントを稼ぐためには利用されていない。ここがムエタイとキックボクシングの大きな違いの1つだと思う。
従い、ムエタイにおいては、純粋に相手に与えるダメージのみが判定基準となっているわけではないことは明らかなのではないかと思う。

**ムエタイのルールブックにはアグレッシブさについても言及してあるが、こちらについては言わずもがな。ルンピニーの方がラジャダムナンに比べてアグレッシブさを評価する傾向にある云々の話はあくまで接戦の場合であり、むしろ、確率的には、1ラウンドの最初からガンガン攻める選手が判定では負けになってしまうことの方が多いであろう**

さて、筆者が強調したいのは、ここからである。

ムエタイの本音と建前は何も判定基準となる「有効な攻撃」に限ったことはなく、採点方式にも大きく関係している。つまり、表向きは、国際式のボクシングと同様、ムエタイにおいても、ラウンドごとに10点満点で採点して、最終的にはその合計点数で勝者を決めることとなっているが、これがまた非常に疑わしいのだ。何度もムエタイの試合を見ていれば気付くことだと思うのだが、ムエタイの審判が、ルールブックに書かれているように、1ラウンドからラウンドごとに採点(各ラウンドが終わるごとに10点満点でスコアを記入)しているとは到底思えない。むしろ、試合が終わってから、全体の流れを考慮して圧倒的大差なら50対47、ある程度の大差なら49対47、接戦なら49対48という具合に、ざっくりと採点していると考える方が、はるかに辻褄が合うのだ。

ムエタイがラウンドごとに採点していないと思える根拠を1つ挙げよう。2014年2月28日に新ルンピニースタジアムで行われたシンダム・ギアットムー9対パコーン・P.K.セーンチャイムエタイジム(サックヨーティン)の一戦でのことだ。

134-1

~続く~

写真 『赤がシンダム、青がパコーン』
写真撮影:早田寛

Copyright©KICK BOXSER SHIRO,2024All Rights Reserved.