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WINNERS2017 1st 志朗VSバカイペット戦 志朗KO勝利

    
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WINNERS2017 1st 志朗VSバカイペット戦 志朗KO勝利

 

こんな劇的な幕切れを見たのはいつ以来だろうか。観客の誰もが判定決着になると思った刹那、志朗の右ストレートがクリーンヒットすると、バカイペット・ニッティサムイはキャンバスに前のめりに崩れ落ちた。
アナウンスされたKOタイムは5ラウンド3分10秒──志朗は試合終了のゴングが鳴るかどうかというところで電光石火の逆転KO勝ちを収めた。

戦前、勝敗予想は一方的にバカイペットの方に傾いていた。案の定、志朗は周囲のタイ人から同情されっぱなしだった。
「バカイペットは強いから負けても仕方ないよ」
どちらが勝つのではなく、バカイペットが勝つことを大前提にして、みな志朗と会話していたのだ。日本人の感覚からすると失礼極まりない行為ながら、タイ人は勝負にシビア。そこに同情を挟む余地はない。
おまけにこの一戦は総額150万円というファイトマネー勝者総取りマッチとして行なわれた。いつも以上にお金が動く試合であれば、ギャンブルというフィルターを通して格闘技を見るムエタイ関係者が目の色を変えるのは当然のことだった。


悔しくなかったといえば、嘘になる。しかし、タイでの知名度を比較してみれば、納得するしかなかった。試合後、志朗は素直に打ち明けた。
「バカイペットはタイで1試合6~7万バーツ(20~23万円)稼ぐ選手。これまでは僕はタイでそのクラスの選手と闘ったことがないですから」
ムエタイの世界は実力至上主義。そのバロメーターのひとつとしてランキング制度があるわけだが、人気の目安はファイトマネーの方がわかりやすい。以前と比べ10万バーツ以上のファイトマネーをもらう選手が少なくなった昨今、バカイペットは間違いなくタイでもトップクラスの選手だった。
だからといって玉砕覚悟のチャレンジマッチをするつもりは毛頭なかった。1Rは様子を見ながら、「骨の強さを競いあえるか」どうかを探った。最終的に骨が弱ければ──つまりスネとスネがぶつかって悲鳴を挙げているようでは勝負にならない。
果たして、1R志朗はバカイペットの動きが良く見えたという。
「左ミドルをもらっても大丈夫だった。でも、ローを効かされましたね。それがちょっとイヤだった」
負けじと、志朗は2Rになると得意のインロー(内腿へのロー)で相手の下半身を削りにかかる。右ストレートも結構入っている感触があったが、何発も打つことはできなかった。「実をいうと、試合の2週間前に右の中指の拳のところを脱臼してしまった」
医者からは全治3週間~1カ月と診断された。それゆえバンテージは入念に巻いてもらったが、手負いの状態のままでのリングインだった。
「途中から痛みはやっぱり感じていましたね」


3Rこそ右ヒジをヒットさせた志朗がポイントを奪ったが、4R以降はバカイペットが首相撲からのヒザ蹴りで怒濤の反撃を見せた。試合の主導権でジャッジをつけるなら、4R、5Rともバカイペットのラウンドだったに違いない。しかし、最後まで勝負を諦めなかった志朗の入魂の一撃が勝負の流れを引っくり返した。
「それまでずっとワンツーだけだったけど、最後はワンツースリーフォーのタイミングでパンチを決めた。バカイペットもスリーフォーまで打ってくるとは思っていなかったんでしょうね」 バカイペットを破った効果は絶大。試合後、タイ側からはすぐ試合のオファーが舞い込んだ。一方、国内でも昨年12月に旗揚げしたばかりの「KNOCK OUT」から声がかかった。
「これでタイではいい位置(ビッグマッチが多い平日興行)で試合を組んでもらえると思う。KNOCK OUTは那須川天心選手や小笠原瑛作選手など軽量級にいい選手が多いので、自分のその輪の中に割って入りたい」
自らの右の拳で志朗は金星を飾るとともにチャンスを掴み取った。

TEXT:布施鋼治/KOJI FUSE

PHOTO:早田寛/HIROSHI SODA

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