キックボクサー志朗公式サイト

ムエタイ入門(27回)

    
\ この記事を共有 /
ムエタイ入門(27回)

今回は、ムエタイで言うところの年間MVP賞(年間最優秀選手賞)について書いてみよう。

MVPとはMost Valuable Playerの略、つまり「最も価値のある選手」という意味であるが、日本ではこの賞のことがあまり正確に伝えられていないようなので詳しく説明したい。というのも、ネットやら格闘技雑誌などで「~年度のMVP選手」と記載されている場合、それがどこの団体が認定するMVPのことを指しているのかが不明瞭だからである。

以下の通り、ムエタイにおいてMVPを選定している団体は1つではなく、数多く存在するのだ。

■団体名:ラジャダムナンスタジアム/MVP呼び方:ナックムエタイ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年12月

■団体名:ルンピニースタジアム/MVP呼び方:ナックムエタイ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年12月

■団体名:スポーツ統括局/MVP呼び方ナックムエタイ・ディーデン他/発表時期:毎年12月

■団体名:7チャンネルスタジアム/MVP呼び方:ナックムエタイ・クワンチャイ他/発表時期:毎年1月

■団体名:チョムロムプアン19/MVP呼び方:ナックムエタイ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年1月

■団体名:ボクシングスポーツ記者会/MVP呼び方:ナックムエタイ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年2月

■団体名:サイアムスポーツ社/MVP呼び方:ナックムエタイ・アチープ・ヨードイヤム他/発表時期:毎年3月

■団体名:スポーツマスコミ協会/MVP呼び方:ヨードムエタイ・トゥアイ・プララチャターン他/発表時期:毎年3~5月頃

MVPに選ばれるということは選手にとっては非常に名誉なことなのだが、1人の選手が、これらの団体全てのMVP賞を受賞するということは殆どない。その理由の1つは、選手によって主戦場が違うためだ。メジャースタジアムに関して言うと、所属するジムや興行によってラジャダムナンスタジアムで試合をすることが多い選手とルンピニースタジアムで試合をすることが多い選手に別れる。実際、ラジャダムナンスタジアムの2013年度MVPに選ばれたのは、同スタジアムのプロモーター(アンモー氏)のジムに所属するジョームピチット・チューワタナ(旧マーピチット・シットソーンピーノーン)であり、同年、ルンピニースタジアムのMVPに選ばれたのは、ルンピニー系の興行であるペットスパーパン興行に所属するヨードウィチャーであった。

また、ギアペット系列のジムに所属する選手であれば、ラジャダムナン/ルンピニーの両メジャースタジアムのみならず、7チャンネルスタジアムに出場する機会も多いが、求められるファイトスタイルが違うためか、その両方で結果を残している選手は少ない。例えば、7チャンネルスタジアムの2013年度MVPを獲得したペートセーンレック・ラチャノンは、ホームでの人気は凄まじいものの、メジャースタジアムではさほど活躍していない。

1人の選手が各団体のMVP賞を総なめにできないもう1つの理由は、審査の対象となる期間にずれがあるためだ。例えば、タイ国スポーツ局の選定するプロムエタイ部門の2013年度MVPに輝いたのはパコーン・PKセーンチャイムエタイジムであったが、その審査対象期間は2013年1月1日~同年12月31日であり、同期間におけるパコーンの戦績は11戦7勝2敗2分であった。ところが、2014年3月6日に発表されたサイアムアワードにおいてMVP賞を受賞したのは、そのパコーンを2014年1月の試合で破ったペットブンチューであり、さらに、同年3月17日にタイ国スポーツマスコミ協会によりMVPに選ばれたのは、それまでの過去1年において8戦全勝の戦績を残したパンパヤック・ジットムアンノンであった。

このように、同じ2013年度であっても、実に多くの選手がMVP賞を受賞しており、さらにややこしいことに、これらの団体の多くが「ヨードムアイ」という称号を用いているのだ。ご存知の通り、「ヨードムアイ」とは最高のムエタイ選手に与えられる称号だが、今のようにMVP認定団体が数多く存在する状況では、年ごとに「ヨードムアイ」の数が増えていくことになり、その価値が薄れてしまいそうである。ところが、その辺のことはムエタイファンも危惧しているのか、実際に「ヨードムアイ」という言葉が単独で使用される場合、その意味するところは「スポーツマスコミ協会に認定された年間最優秀選手」であるということが暗黙の了解になっているように思われる。なぜなら、数あるMVP賞の中でも、毎年最も遅く発表されるタイ国スポーツマスコミ協会のそれが最も権威があると考えられているからである。

過去にこのスポーツマスコミ協会のMVP賞を獲得した選手は以下の通り。まさに歴代の猛者ばかりである。

1984年:ゴーントラニー・パヤックアルン
1985年:チャムアックペット・ハーパラン
1986年:パノムトゥアンレック・ハーパラン
1987年:ランスアン・パンユッタプーム
1988年:サマート・パヤックアルン
1989年:ゲーンサック・ソー・プルンチット
1990年:ゲーンサック・ソー・プルンチット
1991年:セームサン(セーンムアンノーイ)・ルークジャオポーマヘーサック
1992年:ジャルーンサップ・ギアットバーンチョン
1993年:ワンチャンノーイ・ソー・パランチャイ
1994年:オロノー・ポー・ムアンウボン
1995年:カーオポーンレック・ルークスラタム
1996年:ナムサックノーイ・ユッタカーンガムトーン
1997年:アナンタサック・パンユッタプーム
1998年:ガオラーン・ガオウィチット
1999年:セーンチャイ・ソー・カムシン
2000年:ファースチョン・シットオー
2001年:トンチャイ・トー・シラチャイ
2002年:シンダム・ギアットムー9
2003年:アヌワット・ゲーオサムリット
2004年:アヌワット・ゲーオサムリット
2005年:ノーンオー・シットオー
2006年:ジョームトーン・ポームクワンナロン
2007年:ウティデート・ルークプラバート
2008年:セーンチャイ・ソー・キングスター
2009年:ルンルアンレック・ルークプラバート
2010年:ゴーンサック・シットブンミー
2011年:ペンエーク・シットヌムノーイ
2012年:セーンマニー・ソー・ティアンポー及びヨードウィチャー・ポー・ブンシット
2013年:パンパヤック・ジットムアンノン

 

153-1

写真:『タイ国スポーツマスコミ協会の2013年度MVP賞を受賞したパンパヤック(右側の選手)』

文章:徳重信三(シンラパムエタイ)

Copyright©KICK BOXSER SHIRO,2024All Rights Reserved.