ムエタイ入門(3回)
さて、それでは現代のムエタイの選手たちは、どのような生活を送り、どのような練習を積んでいるのだろうか?
今回は、アユタヤ県に住む11歳のムエタイ選手、ジェームス君を紹介しよう。
筆者は先月アユタヤ遺跡群を観光していたのだが、ちょうどその時、近くでランニングをしていたジェームス君に出会った。日本だったらストーキング行為とでも言われてしまいそうだが、走っているジェームス君の後をつけて彼のジムにお邪魔させてもらった。
ジェームス君は、アユタヤ市街地にある歴史公園のすぐ隣にあるジムで練習している。ジムとは言っても名ばかりで、練習生はジェームス君たった一人。マンゴーの木に吊るしたタイヤとサンドバッグがあるだけの超零細ジム。元ラジャダムナンスタジアムの100ポンド級ランキング4位だったというお父さんは、自分がチャンピオンになれなかったことに後ろめたさを感じており、息子のジェームス君には絶対にチャンピオンになって欲しいと思っている。ジェームス君の両親は離婚しており、たった一人の兄は母親について家を出ていった。ジェームス君はムエタイ好きのお父さん、それから父親方の祖母の3人で暮らしている。ぱっと見、決して裕福そうな暮らしぶりではないが、ムエタイ選手の育つ環境としては典型的なもののようにも思える。そんなジェームス君とそのお父さんに色々と話を聞いてみた。
■名前を教えてください。
ジェームス(以下ジェ):ルアンサック・サップアネークです。あだ名はジェームス。
■誕生日は?
ジェ:仏暦2543年(=西暦2000年)10月22日です。
■今は11才、もうすぐ12才だね。いつからムエタイをやっているの?
ジェ:練習を始めたのは5~6才の頃ですが、初めて試合をやったのは9才です。
■その時の試合のファイトマネーは幾らだったの?
ジェ:400バーツ(約1,000円)です。
■そんなにたくさんもらえたの?田舎だったら普通は100~200バーツだよね?
ジェ:う~ん。良く分からないです。
お父さん(以下父):アユタヤは他の地域より物価が高いですから、そういうのも関係していると思います。
■それでは最近の試合では幾らもらってるの?
ジェ:1000バーツ(約2,500円)です。
■今小学生だよね。何年生?
ジェ:小学校5年生です。
■あれ?君の年だったら6年生じゃないの?
ジェ:はい。本当は6年生なんですが、試験に落ちてしまったので留年してしまったんです。
■へ~そういうことか。下の学年の連中と一緒に勉強するってのはどんな気分なのかな?
ジェ:いえ、別にどうとも。もう慣れましたから。
■体重は?
ジェ:通常は27~28キロ程度ですが、試合のときは減量して26キロです。
■ファイトスタイルについて教えてください。
ジェ:右利きのフィームー(テクニシャン)です。
■これまでに試合は何戦くらいやっているの?
ジェ:10戦です。
■意外に少ないんだね。君のくらいの年齢だったら100戦くらいやっている子もいるよね。
ジェ:え、ええ。。。
父:ホントは経験を積ませるため、もっとどんどん試合をやらせたいんですが、お金が足りないんです。アユタヤの市街地で試合があればいいんですが、大抵は結構遠くでの試合になるので、そこまでこの子を連れて行くということになるとガソリン代やらの経費がアレコレ掛かってしまって大変なんです。
■お父さんとお母さんは離婚しちゃったって聞いたんだけど、今でもお母さんとは話をすることがあるのかな?
ジェ:はい、時々電話で話をします。
■どんなことを話するの?
ジェ:家に帰ってきて欲しいって。。。
■そっか。そりゃそうだよね。ところで、試合するときはやっぱり怖いよね。いつもどんなことを考えているの?
ジェ:トレーナーのことです。
■トレーナっていうと?
ジェ:お父さんです。
~続く~
徳重信三