WINNERS2015 2nd 東京・後楽園ホール5月17日志朗がKO勝利
『WINNERS2015 2nd』(5月17日、東京・後楽園ホール)で行なわれたネスター・ロドリゲス(スペイン)とのISKA世界バンタム級ランキング査定試合で、志朗は4RKO勝ちを収めた。激闘の裏側ではいったい何が起こっていたのか。
「自分の攻撃が当たらないよ」
1ラウンド後、2ラウンド後、そして3ラウンド後も、志朗はセコンドに焦りをぶつけた。無理もない。ネクター・ロドリゲスは想像以上にディフェンステクニックに長けていたからだ。
決戦から2週間あまり、志朗は冷静にあの一戦を振り返った。
「過去の試合映像をみても、ロドリゲスは一発も顔面にパンチをもらっていない。正直、3Rまではむかついて仕方なかったですね」
とりわけロドリゲスのディフェンスで白眉だったのはスウェー。案の定、志朗がパンチを打っても、上半身をしなやかにのけぞらせかすらせもしない。
志朗には、別の焦りもあった。一度ロドリゲスのミドルが左ヒジの患部を直撃したので、その刹那ヤバイと思ったのだ。3月のトングサーム戦の前にかかった蜂窩織炎(ほうかしきえん)はまだ治りきっていなかった。
それだけではない。タイで練習中で痛めた左拳も完治にはほど遠い状態のまま、リングに上がった。志朗は普通タイ人は練習の時にヘッドギアをつけないので、誤って頭に当たってしまったと打ち明ける。
「それでも練習を続けたけど、ずっと痛かったんですよ。なので、今回も左のジャブは打ちたくなかった」
試合の展開を追ったメモを見返してみる。案の定、ワンツーという表記はあっても、左ジャブのそれは見当たらない。志朗は完全に手負いの状態で闘っていた。ディフェンス能力に長けたロドリゲスを追い込んだのはボディと下半身への集中攻撃だった。
「スウェーをしたら、下半身(の防御)は空くので、そこを狙うようにしました」
1Rから志朗がローを多用していたのはそういう理由があった。途中までは顔色ひとつ変えず、ローに対して右ストレートやカウンターのヒザ蹴りを合わせようとしていたロドリゲスだったが、次第に下半身はミミズ色に変色してきた。明らかに効いた素振りを見せ始めたのは3R。志朗は手数でロドリゲスを押し始めた。
そして4R。「あと5発もローを連打すれば倒れるんじゃないか」と思っていたところで志朗が右の三日月蹴りを決めると、ロドリゲスは前のめりに倒れ込んだ。うずくまったまま動けない。4R57秒、志朗のKO勝ちだ。
この勝利によってISKA世界バンタム級のランキング入りを確実なものにした志朗は三日月蹴りは狙っていたと打ち明ける。
「結構練習していたんですよ。大月(晴明)さんとスパーをやった時に使ったら、結構怒っていたので試合でも使えるかなと思いました。1Rにも一度左の三日月を使ったらボディに当たったので、右も当たるなと確信しました。最後の一発は足の指が何本もロドリゲズの腹の中に入っていた」
顔面が当たらなかったら、ボディや下半身を攻めればいい。相手の出方に応じて臨機応変に戦法を変えたことは勝因か。試合後、ロドリゲスは志朗に潔く完敗を認めた。
「最後のボディへの一撃は本当に効いたよ」
志朗戦のダメージは深刻だったのだろう。1週間後、母国スペインで予定されていた次戦をロドリゲスはキャンセルせざるをえなかった。見た目はさほど激しくなかったかもしれないが、志朗にとってはケガや葛藤とも闘ったうえで挙げた価値ある勝利だった。