キックボクサー志朗公式サイト

ムエタイ入門(7回)

    
\ この記事を共有 /
ムエタイ入門(7回)

一体タイにはどれだけの数のムエタイ選手がいるのか?

これはムエタイに関心のある人なら誰もが一度は考えたことのある疑問なのではないかと思う。ところがこの正確な数値を求めることは実に難しい。なぜなら情報源によって1万人とするものもあれば10万人とするものもあり、全く数値が異なっているからだ。

なぜか?

この理由はムエタイ選手の定義の違いに起因しているのではないかと思われる。例えば、ムエタイ選手を「ムエタイの試合をやったことがある人」とするのか「今現在ムエタイの試合をコンスタントにこなしている人」とするのかだけでも数値に何倍もの差が生じるであろう。また、タイ語でムエタイ選手のことを「ナックムアイタイ」と云うが、短縮して「ナックムアイ」と呼ぶ人も多い。厄介なことにこの「ナックムアイ」はムエタイの選手だけではなく国際式ボクシングの選手、とりわけアマチュアとして学校のクラブ活動などで国際式ボクシングをやっている選手も含んでしまう。これもムエタイ選手の数に大きなばらつきを与えている要因の1つであろう。

ここではプロの現役ムエタイ選手に限定してその数を検証したいと思う。

まず、タイの首都であるバンコクのリングで活躍するムエタイ選手の数は、次の方法である程度判断できるのではないかと思う。まず2大スタジアム(ルンピニースタジアム&ラジャダムナンスタジアム)では、2つ合わせると毎日興行が行われており、それぞれの興行では10試合(20名)程度マッチングされる。つまり1年間365日ではざっと7000回の試合出場の機会が与えられる。よって、コンスタントに試合出場の機会が与えられている選手とそうでない選手を合わせて、1人の選手が1年間に2大スタジアムに出場できる回数を平均7回と仮定すると、この2つのスタジアムが抱える選手の数は、1000人程度ということになる。

もちろんバンコクで興行が行われるのは2大スタジアムだけではなく、テレビマッチとしてオムノーイスタジアム(土曜日)、7チャンネルスタジアム(日曜日)、インペリアルラートプラーオ内特設リング(土曜日/日曜日)などでも毎週興行が組まれているが、これらのスタジアムに出場する選手は2大スタジアムに出場する選手と重なる場合も多いので、これらテレビマッチでのみ試合を行なっているという選手は数百人もいないであろうと考えられる。つまりバンコクで活躍するムエタイ選手はざっと1000人強ではないかと推定できる。

次にタイ全土におけるムエタイ選手の数を考察してみる。

そもそも規則上全てのムエタイ選手(ナックムアイ)、ムエタイジム(カーイムアイ)、ムエタイスタジアム(ウェーティームアイ)は、タイ国観光・スポーツ省スポーツ庁ボクシングスポーツ委員会に登録されなければならないことになっているため、同委員会が公表している統計を見ればムエタイの競技人口が一目瞭然となりそうなものだが、これらの数字がどの程度実情を反映しているのか分かりにくい。当該統計によると、ざっと選手の数が(男女、全ての年齢層を含めて)3000人、ジムの数が2000、スタジアムの数が20となっているが、まずジムについては既に閉鎖されたものも多数含まれているため、実際にはこの数字の半分くらいではないかと思われる。逆にスタジアムについては、明らかに少な過ぎると思われ、実際にはタイ全土に100程度のスタジアムが点在していると思われる。同様にムエタイ選手についても既に引退したと思われる選手が多数登録されている反面、中央のムエタイシーンで活躍する現役バリバリの選手の名前がなぜか抜けていたりする。

いずれにせよ、こういった数字を参考にすると、タイ全土におけるムエタイの競技人口は意外に少ないのではないかと僕は考えている。あくまで推定だが、現役バリバリのムエタイ選手に限定した場合、登録を全く行わずに地方の寺ムエタイ(ムアイワット)に出場しているような選手も含めて、その競技人口は上記登録数の倍、ざっと6000人程度ではないだろうか。

ちなみに日本では、笹川スポーツ財団が2010年に実施したアンケート調査(過去1年間の各種スポーツ実施状況を2000名に質問)に基づく推計競技人口によると、サッカー、野球、卓球がそれぞれ500万人となっており、同2006年度の調査では剣道が135万人、柔道68万人となっている。日本の人口が約1億3千万人、タイが7千万人であることを考慮しても競技人口の差は歴然としている。

ただし、日本の各種スポーツとムエタイでは決定的に異なる点がある。どのスポーツにしても日本の場合、競技者の殆どがアマチュアであり、プロとして活躍しているのはその極一部に過ぎないが、タイの場合、ムエタイを趣味としている人は少なく、(数少ない一部のアマチュアムエタイ選手を除いて)ムエタイの競技者≒プロ選手ということになる。例えば、日本プロ野球の各球団がそれぞれ80名の選手を抱えているとすると12球団で1000名弱となるし、サッカーJリーグ(J1+J2)に所属するプロ選手の数は1000人強だと云うし、また日本の国際式ボクシングの場合、ライセンスを保持しているプロボクサーの数は2500人程度だそうだ。これらの数字と比較すると、例えムエタイ選手の数が6000人であったとしても、彼らが全員(子供たちも含めて)プロフェッショナルであると考えると、まんざらこれは少ない数字ではないかもしれない。
88-1

写真:バンコクへの道

Copyright©KICK BOXSER SHIRO,2024All Rights Reserved.